恋愛指南書


これが恋というものなのだろうか?

「恋っていーもんだよ、温かいしさ…」

某には恋などにうつつを抜かす暇などない、そう…思っていた。

そもそも恋というものすら分かっていなかったのだが。

「慶次殿は、恋をしたことが?」

何かと恋は良いものだと、慶次殿から何度も聞いて。

「あれ?いつもの破廉恥ぃぃいい!!!//…は??」

「それよりも某の質問に答えて下され」

確かに普段の某ならば、破廉恥と叫び聞く耳すら持たなかった。

「ちょっとごめんね~…実は旦那ったら」

一目惚れしちゃった。

「…みたいで、恋の相談はアンタが一番だって聞かなくてさ」

「成程~で、お相手はどんな娘?可愛い?それとも美人さん??」

あの堅物で口を開けばお館様しかない、そんな漢だったってのに。

「伊達殿と申して、某より2つ上のくーるな人でござる!!」

やっぱ恋はいーもんだねぇ、こんなに生き生きしちゃって。

「へぇ~年上の美人さんって訳か…って、2つ?」

幸は今、高校2年。

「俺様も直接見た訳じゃないんだけど、この前の教科書販売の時みたいでさ」

確かにこの前、教科書販売があって…2年と3年はそれぞれ別に売られていた。

「その時の売り手さんに惚れちゃったって訳か!!」

「嬉しそうに言うけど大変だったんだからね?;」

顔真っ赤にして、放心状態のまま戻ってきて。

『あれ?旦那、教科書は??』

『…それどころではない!!//』

『∑何言ってんの!?』

『……これが恋というものなのだろうか?//』

「教科書は担任が持って来てくれたから良いものの…;;」

それ以来ずっとこの調子で。

「慶次殿でしたら、如何様になさるか?」

俺だったら……。

「Ah?何だありゃ??」

渡り廊下で繋がった向い側の棟。

この大学の付属に位置する高校のその廊下。

「んー?∑…おもしれぇことやってんじゃねぇか!!」

全速力で廊下を駆けていく一人の生徒。

「It’s crazy!…何がしてぇんだか」

「何か叫んでるみてぇだけどよ…ってオイ、政宗っ!!;」

慌てて政宗の後を追いかけて横に並んだ。

「そーいや、例の餓鬼…「ソイツならさっき見たじゃねぇか」

興味なさげに話すがしっかりと目はソイツを追って。

テメェは知らねぇだろうが、興奮した時の癖までハッキリ出てやがる。

「で、何て叫んでやがった?」

「俺らのとこまで聞こえねぇっての;」

ソイツは2階から3階への階段を駆け上がり、同じように何かを叫んでいた。

「---で、あン時によ…何があった??」

「しつけぇな、金払ったっつうーのに教科書を受け取らねぇ馬鹿が居ただけだ」

何度言えば分かる?

口には出さないが睨みつけることで意味を成して。

「その割には、機嫌良さそうだったぜ?政宗」

スムーズに販売が行われても、不機嫌な面だったってぇのに。

「やっぱアイツが絡んでんだろ?いーじゃねぇか、な??」

『ここを押して…音量はこれでござるな?』

何の前触れもなく入った学内放送から聞こえてくるのは、例の馬鹿の声で。

「何してやがる、あの馬鹿」

元親に聞こえないよう呟き、舌打ちを一つ。

『もう少し上げた方が良いかも知れませぬな!』

ソイツの声とは別に制止の声も入るが聞いちゃいねぇ。

「んだぁ?何かあんのか、今日」

他のやつらも何事かと足を止め、放送に耳を傾ける。

『----伊達政宗殿』

先程よりもずっと真剣な真っ直ぐな声。

その声に心臓が奮えた。

周りの音という音が消えてソイツの声しか耳に入らない…。

『某は真田幸村と申しまする』

突然、放送室をジャックしたソイツ…もとい真田幸村は。

初めて会った時も…そして今も、一瞬で俺を虜にした。

『突然、このような形で貴殿の名をお呼びしてしまい…すみませぬ;』

その言葉とガンッという音から察するに、マイクの前で頭を下げたな…なんて。

想像すればするほど笑いが込み上げてくる。

『しかし、伊達殿にどうしても申し伝えたいことがあり……』

『このような強硬手段に出た所存』

背筋がゾクゾクするような昂揚感。

「アンタは俺に何を……させてぇんだ?真田幸村」

元親の声を背に、気が付けば放送室へ駆け出していた。

「ちょっと待って!…これ、旦那の声じゃないの?;」

不自然な放送が入って暫くして聞こえてきた声は、探し人である旦那の声で。

「吉と出るか、凶と出るか……それにしても早いね~幸は」

「アンタが放送で呼び出しちゃえば?なんて言ったからでしょーが!!」

流石、慶次殿でござるなんて満面な笑みで言ったかと思えば。

「とにかく…旦那は今、放送室だろうから……∑ッ!?」

「今行こうってんなら…幸の為に俺は止めるよ」

佐助の腕をしっかりと掴んでその場に引き留めて。

「人の恋路に水を差すって、無粋だろ?」

「何、全力…疾走、してんだか……ッ」

人目も気にせず高校の棟まで走って、例の放送室前は意外にも人がいなかった。

息を整えて、軽くノックしてみるが返事はない。

『伊達殿、某は……~~ッ』

「お楽しみのとこ悪いが、本人目の前にしてマイクは必要ねぇだろ?you see?」

ズカズカと奥に入りマイクの音量を下げていく。

「伊達…政宗、殿」

「また、会ったな…真田幸村」

血が騒ぐ。

心臓が張り裂けそうなくらい鼓動を刻んで。

「某は…お慕いし、ッ!!?」

俺から触れたのは一瞬、後は喰らいつくようなkiss。

「言葉なんざいらねぇ」

唇を一舐めし、欲情したアンタを挑発する。

欲しているのは何もアンタだけじゃねぇってことだ。

(I love it so as to be mad. ……か)

「後悔すんなよ?」

この俺を本気で相手にするんならな。

fin.